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『Hvala,baba Ⅱ』

『Hvala,baba Ⅱ』

Hvala,baba
【Ⅱ】



 朝から、ペトラは真っ黒なワンピースを着せられ、見知らぬ田舎町のある一軒家へやって来ました。
 同じ、真っ黒の服を着た人たちが、たくさんいました。
 ゆるやかで物悲しい音楽が、ペトラの耳をすり抜けていくのと同時に、小さな会話が聞こえてきました。

「彼女の遺言だそうだ。自宅葬にしてほしいと――」
「入院してからも誰も住んでいない家を手離さなかったのだから、よほど思い入れがあったんでしょうね」
「俺にはわからんよ。ばあさんにとっちゃ、辛いだけの家だってのに」
「ほんとうにね……最期を看取る、親族ひとりいないなんて」
「……ばあさんが不憫でならんよ。かわいそうに」


…………


 ペトラは、忙しなく動くパパとママから離れ、一人、古い家の中を歩きます。
 よく見ればどこもかしこも埃だらけで、指を滑らせれば、その指が真っ白になりました。

「懐かしいのう。あの頃と何も変わっとらん。いつもその辺で、ダルコが煙管きせるをふかしておった」

 二人の老人が、部屋の入り口にやって来ました。

「ダルコか……息子を一人追い出して、自分は妻を置いて、妾と二番目の子どもを連れて出て行ったんだったな。今でも忘れんよ」
「罪深い奴さ……もう、半世紀以上、前になるかのう」
「彼女はずっと一人で、よく生きてきたもんだよ」
「何もしてやれんかった……今更だが、かわいそうなことをした」
「そうだな……」

 ペトラは老人の口が閉じられたのを見て、また、埃の積もるテーブルに指を滑らせました。
 すると、何かナイフのようなもので刻まれた文字が現れました。


“Saša(サーシャ)”

“Ivan(イヴァン)”

“Puno ljubavi(たくさんの愛を込めて),Ema”


 ペトラは彫られている名前を凝視しました。
 その時、老人がこう、呟いたのです。

「安らかにな、エマ・ ・――」

 ペトラは、ざっとテーブル全体の埃を払いました。
 目に見えて塵が舞うも、関係ありません。

 そこにあったのは、少しの隙間もないほど刻み込まれた無数の文字でした。
 サーシャとイヴァン、そして、エマ、エマ、エマ――

 ペトラは弾けるように部屋を出ると、一番奥の部屋へ飛び込みました。
 黒い服を着た人が大勢集まり、みな口元や目元を押さえて何かを話しています。
 ペトラは一直線に人だかりの中心を目指しました。
 大人の波をかき分けた先にあったもの、それは。


エマおばあちゃん……? なんで、ここにいるの?


「ペトラ」


ママ。 ……ここは、エマおばあちゃんのおうち?


「ええ、そうよ。あなたには、何から話したらいいかしら、彼女のこと」

 ペトラはエマおばあさんをじっと見詰めました。
 深い皺を刻み込んだ白い顔は、ぴくりとも動きません。

 視線をずらすとあるものが目に飛び込んできました。
 それは、ペトラが大好きな、あの絵本。
 おばあさんはその絵本を、愛(いつく)しむように抱え込んでいます。

「ペトラ、聞いて、彼女は――」
 

ママ、Hvala!


「え?」

 驚いているママを背にして、ペトラは人ごみに消えて行きました。
 一目散に向かったのは、自然の美しいこの家の庭でした。


Hvala……Hvala……



→ Ⅰ
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