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玉楼乃夢 1

玉楼乃夢 1

玉楼乃夢 1

手の中で炎が揺れた。
摩擦によって引火する瞬間の、ぼう、という音と手ごたえに、僅かながら興奮を覚えた。
しゃがみこみ、生まれたての小さなそれをそっと紙屑に触れさせる。
初めはどこか遠慮がちだったものが、すぐに大きなうねりとなって、山積みされた紙屑を呑込む。
立ち上る煙。墨の匂いが微かに鼻をつく。
心なしか右の二の腕がだるい。
一晩中硯を擦り付けて筋肉痛になったとあれば、格好のネタである。

「古きが去らねば新しきもの来ず、ってね」

原語では、“旧的不去,新的不来”と言う。
何気ない言葉のようでいて実に奥深い。
なんと言っても語呂が良い。
大昔の人は本当に大したものだとしみじみする。

「あれぇ?何をしてるんです?」

背後から突如子どもの声がした。
今の心境にはそぐわない、のんびりふんわりとした少年の声。

「焚き火なんて。真夏に。こんな早朝から?」
「風呂を焚こうと思ってね」

振り返らずに答える。
ここは庭の真ん中。平たい石の上に直に火を起こしている。

「お、風呂……?えーと……んん?」

あどけない表情が困惑気味に歪んでいるのを容易に想像できていた。
立ち上がって軽く膝を伸ばし、くるりと少年に向き直る。
想像通りの顔がそこにあった。

「冗談だよ」
「……分かってます」

少年の右手には、皮を剥いだ鶏を逆さまに吊るした紐が握られていた。
朝市の帰りだろう。
この辺りの朝食の定番である、細長い油パンの覗く紙袋は、左腕でしっかり抱え込んでいる。

「油パンが五本。もしやご招待かい?私がこんな風に紙を焼くのを見越していたのかな、お前の御主人様は」
「まさか!いくら先生でも……。ここに来たのだって偶然煙が見えて、火事かと思っ……あ、いや」
「だけどね、油パンの数をどう説明する?彼の頭脳を持ってすれば、お隣さんの行動の一つや二つ、見通せるでしょ?」
「はぁ……」

第一声はとても慌てているようには思えなかったな、と私は思った。
さきほどから緩まないしかめっ面を後にして、炎の消えた黒い残骸を片付けることにした。
気分はずいぶん良くなっている。

「それじゃあ、ぼくはこれで」
「ピン」
「はい?」

もう一度少年に視線を合わせ、私は少し笑って言った。

「風呂はちゃんと風呂場で焚いてるよ、いつでもね」
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